僕が Google を辞めた理由

Google に入社

僕がスウェーデンに留学していた2002年のある日、ある中国系スウェーデン人の友人の女の子が嬉しそうに話しかけてきた。
「ダイスケ、聞いて!私、Google でインターンすることになったの。私、カリフォルニアに行くわ!」
僕は、ぽかんとした。で、いったいGoogle で何をするの?
「マーケティングよ!」
でも、Google ってただの白いページでしょ。みんなもう使ってるし、何をどうマーケティングするの?
「わかんない!でも、面白そうじゃない?」
振り返ってみると、この頃すでに Google は 検索連動型広告AdWords の販売を開始していて、この2年後にはIPOをする。当時の僕にはまったく知る由もなかったが、新しいファンクションがどんどん立ち上がって当然エキサイティングな時期であったろう。
この5年後、カリフォルニアから来日する Google のディレクターのインタビューを受けないかという話が舞い込んできた。そして、その子の「面白そうじゃない?」という言葉を思い出し、僕はふたつ返事でインタビューにのぞんだ。
ご他聞にもれず、ホワイトボードを使って自分の考えを説明する。英語で本格的にディスカッションをするのは久しぶりだったので、2人との合計2時間近いインタビューのあとはへとへとになって頭が溶けそうになった。その後、Google からのオファーをもらったが、実際に、Google にジョインするかどうか僕はまだ迷っていた。
その頃は、「国産検索エンジンを!」というようなことがまだ叫ばれていた頃であり、なんとなく外資である Google に行くのが気が引けたのだ。ここに僕の友人が肩を押す。
「気が引けるっていうけど、むしろ Google が日本に広まって行かないことの方が将来的に日本にとってのリスクになるかもしれないんじゃない?」
この言葉はとても腑に落ちた。そして、僕は Google にジョインする。

入社後すぐに、カルフォルニアのマウンテンビューにある本社(Google キャンパス)に2ヶ月ほど滞在することになった。
はじめてのマウンテンビューに向かう車の中
マーケティング戦略やプロダクト戦略のためのデータアナリストというアジアはじめてのロールで採用された僕の最初のミッションは、まず、本社のメンバーとプロジェクトをこなして、Google のデータアナリストチームのやり方を吸収するというものだった。公私ともにシリコンバレーを満喫できた。仕事では多くのさまざまなバックグラウンドを持った Googler と会い、議論し、プロジェクトを進める一方、週末にゴルフ場にぷらっと一人で行くと、他に一人で来ているような人たちと一緒に回ることになるのだが、たいてい、Yahoo や ebay といったテック企業で働いている人たちで、シリコンバレーのゴシップなんかを話ながらゴルフをする。
Google のコーポレートアパートメント
このように Google での最初の立ち上がりをマウンテンビューで過ごすことができた経験から、Google が狙うスケール感や、どう Google のリソースを活用して、自分の価値を発揮するかについて非常によい勘どころが身についたような気がする。その後、私は日本のマーケットでの中小企業向けのマーケティングを担当するようになるのだが、自分の担当する日本というマーケットだけに視点を持つのではなく、海外のマーケットからのラーニングなどを活用して自分たちのストーリーをつくっていった。そして、その後アジア・パシフィック全体の中小企業向けマーケティングを統括するようになった。

Google での生活において僕のベースとなるオフィスは東京オフィスであったが、非常に国際的な5年弱を過ごした。世界中の超優秀なGoogler 達と議論するしていると自分が情けなく思えるようなこともしばしばであるが、そのように落ち込んでいる暇もなく、学びだらけの毎日であったと思う。

Google を辞めた理由

僕がなぜ全自動のクラウド会計ソフト「freee(フリー)」の事業を立ち上げたかということは以前書いた通りなのであるが、それとは別に、「なぜそんな Google を辞めたのか」ということをとてもよく聞かれる。freee の事業がやりたかったのだというのがもちろん最も重要な理由だ。ただ、より自分と Google という視点から見てみると、昔から起業したかったかという訳でもない自分が Google を辞めて起業をしたのは、ざっくりいうと、「Google のキャリアを通じて、僕のネクストステップとしては「起業」というかたちが自分がもっとも世の中にインパクトを与えられうるかたちだと思うようになった」というのが言い当てていると思う。さらにそれをひも解いてみると、主に3つの要素があると思う。

1. 起業やスタートアップが普通の選択肢

起業したり、アーリーステージのスタートアップにジョインするというのは Googler(Google社内用語でGoogler社員のこと)にとっては、結構普通のチョイスだと思う。有名な起業の例でいえば、Instagram や pinterest などがあるし、逆に現役の Googler の中にも、かつて起業を経験したことがある人も多い。Google にいると、起業は珍しい考えなのではなく、すぐ身近にある選択肢だと思うようになる。印象的なできごとがあった。ある時、僕はロンドンで開催された、Google のさまざまなオフィスののさまざまな領域でのシニアマネージャーを対象としたリーダーシップに関するトレーニングに参加した。そのプログラムの中で講師から、「Google にジョインしなかったら今何をしていたと思うか」という質問があって、その場のほぼの人が「起業していたと思う」と答えた。そんな環境でいると、自然と起業するということが普通の選択肢となってきた。また、Instagram の創業者で、ex-Googler (Google用語でGoogleのOB/OGのこと)であるKevin Systrom のエピソードにも刺激を受けた。Kevin はGoogleでは僕と同様にマーケティングの組織に在籍しエンジニアではなかったが、自分でプログラミングを覚えてプロトタイプを作成し、Instagram を立ち上げたという話だ。これを聞いて、なんとなく起業するに際しては自分もコーディングを覚えて実践するというアイデアに対しても抵抗がなくなった。そして、全自動のクラウド会計ソフト「freee(フリー)」の構想ができてきたころ、僕は Ruby On Rails の勉強をしてプロトタイプづくりを始めた。

2. スモールビジネス向けマーケティングとの出会い

インターネットはさまざまなものを民主化 (democritize) した。大企業やお金持ちに限定されていたような情報やコンテンツを分け隔てなく開放することに貢献したのだ。スモールビジネス(中小起業)は特にその便益を受けたセグメントのひとつだ。有名な話だが、Google の収益を支える検索連動型広告の最初の広告主は、自動車会社でも日用品メーカーでもなく、東海岸の小さなロブスター屋さんであった。インターネット以前は広告というマーケティング手段は、スモールビジネスにはなかなか手の出ないものであったが、それが民主化されたのだ。このような動きの中で、スモールビジネス向けのオンラインプロダクトをどのようにマーケティングするかというのは当然重要な課題となるのだが、この領域はまだまだ新しい分野であった。僕は Google にて、偶然にもこのスモールビジネス向けのマーケティングという領域に出会い、世界中で同じテーマに取り組むGoogler と議論したり、海外事例を研究したり、徹底的な試行錯誤を繰り返してノウハウを築いていった。チームの採用活動をする中で、直接関係があったり役に立ちそうな職務経験を持った人にはほとんど出会ったことがなかったことからも、いかにこの分野があたらしい領域かを再認識した。

全自動のクラウド会計ソフト「freee(フリー)」の構想を思いついたとき、Google 以前に経験した ALBERT でのCFO(最高財務責任者)としての経験やレコメンドエンジンのプロダクトマネジメントの経験、そしてこのスモールビジネス・マーケティングの経験をかけ合わせると、自分はこの事業を他の人よりもちょっとうまくできるような気がした。そんな気がするなら、やってみるのが義務だと考えた。

3. 素晴らしいナレッジやカルチャーは拡散したほうがいい

Google とビジネスをした経験がある人に freee のプレゼンをしたり、僕の思いを説明すると「やっぱり元 Google の人ですね」と言われることがよくある。僕が現在取り組んでいるのは、「会計ソフト」なのであるが、そこに Google の香りを感じてもらえるならそれはとても嬉しいことだ。僕は、有名な「10の事実」に代表されるような Google の考え方やカルチャーが大好きであるし、このような考え方をもとに世の中をもっとよくすることができる機会が、Google が取り組んでいない領域でもたくさんあるのではないかと思う。人材の流動が活発なシリコンバレーでは、Google を飛び出た ex-Googler たちが、シリコンバレー全体としてのカルチャーの形成やイノベーションに大きく貢献している訳で、同じようなことは世界レベルで起きていくべきだ。Google の中でも、マーケティングというプロダクトとビジネスの間に立つ役割を担う機会、さらにアジア・パシフィックという新興マーケットにおいて国際的な役割を担う機会に恵まれた自分であればこそ体得してきたナレッジを異なる領域に応用し、その考え方をさらに世の中に拡散させたい。もちろん、freee がすべて Google 流だという訳ではないのだが、考え方の点で大きく影響を受けている。

ここで、面白いことに最初の話に戻ってくる。「Google のようなものが日本に広まっていかないとすると、それはリスクだ」と考えて Google にジョインした僕は、今度は Google の経験を通じて体得した考え方を、自分のビジネスを通じて、世の中に広めようとしている。

まとめ

このように、Google というカルチャーによって、自分は新しいスキルを身につけることができたし、新しい世界を知り、考え方としても大きく影響を受けるようになった。普段から僕は「結局自分はどんなインパクトを与えたのか」、という問いが自分自身のよりどころとなっているのだが、Google での経験により、今自分のインパクトを最大化させるために、「起業」がもっとも自分にとってしっくりくるネクストステップであると思うようになった。まだまだやらなくてはいけないことだらけですが、スモールビジネス経営者がクリエイティブな活動にフォーカスできる環境の実現に向けて頑張っていきます。

僕が Google を辞めた理由」への4件のフィードバック

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  2. ピンバック: ツカエル!ネットの話題 » Blog Archive » 11月19日 05:00版

  3. ピンバック: 2013年Rubyの話題を一挙に振り返るまとめ | Engine Yard Blog JP

  4. ピンバック: 体験談を語るよ!確定申告初心者にオススメのソフト・本はfreee!

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