freee 3周年 – 小さいビジネスほど強くてカッコいい流れをつくろう

毎年、真夏のジリジリした太陽とにらめっこすると、freeeの開発に着手した3年前を思い出す。カーンと晴れた空を見ながら、強めにエアコンと J-WAVE をかけて、僕と横路はひたすら開発と議論に没頭した。

自宅で開発をしていたので、昼飯以外には外には出ない生活。お決まりのように午後1時に昼飯に出ると、強い日差しと照り返しに、毎日ぶったおれそうになったものだ。

すでに1ヶ月も前となってしまったが、2015年7月9日、freeeは3周年を迎えた。今年は、7月10日に全社で合宿をしていたこともあり、合宿の場でお祝いをした。

そんな3周年という節目として、freeeの第3期を振り返ってみたい。

1. 事業の拡がり

まず、シンプルにプロダクトが増えた1年であった。

主に個人事業主向けの会計ソフトとして立ち上がった会計ソフト freee も、この1年で法人向けでも大きく進化をとげ、200人規模の事業所でも利用されて大きくビジネスを効率化するほど、本格的な会計ソフトとして成長した。これは、細かな設定や使い勝手を強化するだけでなく、経費精算機能・請求書読み取り機能の追加や請求書発行機能の強化し、「バックオフィス最適化」という新しいコンセプト(後述)を実現し始めているなどによる。

2014年10月にはクラウド給与計算ソフト freee の正式版をリリース。給与計算ソフトの非連続的な進化を実現した。開発にあたっては、エンジニア、マーケティング、カスタマーサポート等が一体となってチームをつくり、誰でも簡単に年末調整までこなすことができ、1クリックで給与計算から明細配布までができるプロダクトを世に出すことができた。

2015年6月には、会社設立 freee をリリース。このプロダクトの原案は、昨年の社員合宿(オフサイト)からあがってきたものであるが、確定申告後の次の一手として、全社戦略に合致するものであったことから、すぐにプロジェクトチームを結成し、短期間でのリリースにいたった。リリースは非常に大きな成功を納め、freee はスモールビジネスの誕生を支援し(会社設立)、日常を支援し(経理)、成長を支援する(給与計算)バリューチェーンを構築することができた。(関連記事)

プロダクトラインを拡充することは簡単なことではない。プロダクトや販売方法、カスタマーサポートの複雑化が進むし、戦力が分散するリスクもともなう。僕個人としても、以前のスタートアップの経験から、スタートアップにとっての事業の分散化がどれだけ大きなリスクを伴うかを目の当たりにしてきた。

しかし、そのような困難を乗り越え、プロダクトライン拡充を成功させるにはいくつかのカギがあると考えている。

  1. プロダクトライン間の強いシナジーがあること
  2. プロダクトライン間で提供する共通のストーリーがあること
  3. 組織内に強いカルチャーと信頼関係が存在し、各プロダクト・サービスを担当するチーム間で濃くかつ信頼感の高いコミュニケーションが存在し、全員が組織の提供するサービス全体のことを意識できていること

おそらく、この3つの論点は相互依存的でもあるかもしれないが、これを実現するかたちで、さらにプロダクトラインの拡充を進めていきたいと考えている。会社設立freeeのような新規のアイデアをもっと溜め込み、事業として実現をしていきたい。

また、別の視点から見れば、僕たちは、スモールビジネス向けにクラウドで価値を提供するという視点では完全にフォーカスして、一点もぶれていない。この「スモールビジネス ✕ クラウド」に特化していることは freee の大きな強みでもあるし、この領域の中で、やるべきことは非常に多くあるのだ。

2. 顧客体験を軸にサービス全体としての freee を再構築

freee の当初のビジネスの推進方法は非常にシンプルであった。

  • とにかくいいプロダクト(ソフトウエア)を高速でつくろう。
  • それを知ってもらおう。
  • そして、使ってもらってわからないことがある人には全力でサポートしよう。

これはこれで、少人数で急速に成長するビジネスを支えるには、よいアプローチであったのだろう。しかし、freee にとって昨年度はこれを大きく一変させる年となった。

簡単にいえば、この一年は、単にソフトウエアとしてではなく「サービス全体」として価値あるものを提供したい、という思いのもと、がむしゃらにやってきた一年だった。がむしゃらにやってきたのではあるが、振り返ってみるとそれは、僕達の都合 (供給側の都合)から離れて、顧客体験を軸にソフトウエア・コミュニケーション・人的サービスを再構築するという、とても当たり前のことでもあった。

例えば、一番大きな変化はセールス組織の立ち上げであった。誰でも簡単に使える業務ソフトを目指すfreeeであるが、オンラインだけでは、理解をしてもらえない局面もやはり沢山ある。その中で、顧客ひとりひとりのニーズをしっかりと把握し、freee の導入を価値あるかたちで支援するのがセールスチームのミッションだ。freee のセールス組織を立ち上げていくなかで勇気づけられたのは、導入いただいた際に顧客に非常に喜んでいただけるケースが多いというところであった。まさに、顧客体験を軸に考えると、「freee を知ってもらう」と「freee を使ってもらう」の間にひとつ大きな溝が存在していて、そこに橋をかけるきっかけをつくることができたのだ。

また、顧客体験を軸に考えるともう一つ重要な視点がある。それは、多くの場合、法人においては会計ソフトは税理士さんと一緒に利用されるという事実だ。こちらでも、freeeを利用して顧問先にサービス提供するパートナーである「freee 認定アドバイザー」を増やしていく、というのも顧客体験においてかけるべき大きな橋であった。この一年ではこちらでも大きく進捗があり、1,400を超えるの会計事務所さん等に認定アドバイザーとして登録いただくにいたった。1年間の達成としてはとても大きなものであったが、もちろん、まだまだやるべきことが残されている。

このような橋渡しを、新たなチームを発足し、試行錯誤を繰り返し、サービスとして、事業としての成長を実現してきた1年だ。このようにサービスを充実させることにより、顧客接点からソフトウエアとして改善すべきことが見出され、開発チームがそれを改善していくというサイクルが自律的に行われ始めてもいる。

また、日本に600万あるとされるスモールビジネス向けのサービスを提供する freee としては、このようなサービス拡充もスケーラブルなかたちで行わなければならない。そのためには素早く実行することはもちろんのこと、テクノロジーを活用したり、クリエイティブなアイデアを出していくことが必要で、セールスもマーケティングもビジネス開発もサポートも、「世の中に変革を起こすラボ」のような取り組みをしてきたな、振り返ってみると思える。

今後もさらに、この顧客体験における橋渡しを、さまざまな方法論でうちだしていかなくてはならない。

3. 自分の役割 ⇛ 事業開発から経営へ

3年目の freee と僕の意識を考えてみると、大きく変わったことがひとつある。それは、自分の仕事が事業開発から経営に変わったということだ。

おそらく、最初の起業家の役割とは基本的にはプロダクトなり事業なりを開発することだ。狩人軍団、カウボーイ軍団の中心的存在として大暴れする。Zero to One にはそれが欠かせないだろう。しかし、集団が一定規模を超えると、そうもいってられない。むしろ、ウワサを聞きつけて集まった優秀なメンバー達がどんどん成果を出し、ワクワクするような経験ができるような環境をつくらなくてはいけない。

僕個人としては、そんな転換が強く大きく起こった1年だった。組織カルチャーとか、いろんなものごとのサイクルとか、メンバー全員でより大きなことを成し遂げるための考え方とか、用語の定義とか、それをいかに有効かつ自分たちらしいものにするかをつくっていく。そしてこのような問いも参加型で皆が関わって答えを出していかなくてはならない。皆で議論してブラッシュアップしていった価値基準や、チームミッションをセットして振り返ることなんかは非常に重要なアウトプットだ。

こういったことから、自分の時間の使い方や、興味や関心事、気をつけることなどは非常に大きく変わった一年だった。

4. 新しいコンセプトへの挑戦

これらの大きな変化の1年間で freee は、あらたに2つのコンセプトを打ち出した。

バックオフィス最適化

会計ソフトとして、経理の自動化に取り組んできた freee だが、2014年10月には会計ソフトの枠にとらわれず、バックオフィス業務全体の省力化を実現する「バックオフィス最適化」のコンセプトを打ち出した。受け取った請求書をスキャンして読みこめば、会計ソフトへの記録だけでなく、銀行振り込みまでができる。freee の給与計算を利用すれば、会計 freee にも連動する。従業員の経費精算も freee でできる。freee で簡単に請求書発行と入金管理ができる。これらが、バックオフィス最適化が実現することだ。

単なる会計ソフトの時代は終わった。これから、会計ソフトは業務全体を効率化するものになるのだ。(関連記事)

クラウド完結型社会の実現

これまで、ビジネスのバックオフィスの現場では、どうしても書面でのやりとりが必要になっていた。これは行政の仕組みや法規制によるものが大きかった。例えば、従業員が入社した際には行政に対して多くの書面手続きが必要であるし、領収書や請求書は紙で保存される必要があった。ところが、これらが政府の電子化の政策により大きく変わってくる潮目にある。その中で freee は、クラウド完結型社会の実現というコンセプトを掲げ、これにコミットしている。行政の手続きや、書類の保存などバックオフィスにおけるすべての部分において、 freee からクラウドで完結できる社会の実現である。(関連記事)

この構想のファースト・ステップとして、2015年5月には、日本初となるe-gov API (政府の提供する電子手続きAPI)を利用した「労働保険の電子申告機能」を給与計算 freee上で実現した。給与計算 freee 上で、給与計算をしていれば、数クリックで労働保険の電子申告ができるというものだ。このように、クラウドでさまざまなことを完結させることができれば、生産性は大きく向上する。そしてまた、今年10月より配布が開始されるマイナンバーの導入もこの動きに拍車をかけることが予想され、freee も「マイナンバー管理 freee」の提供を発表している。

現在、日本においては、生産性の向上は非常に大きな課題である。(日本再興戦略 改訂2015においても「生産性革命」は大きな柱となっている) そのための大きなカギが、このバックオフィス最適化とクラウド完結型社会の実現にあると僕達は考えている。そのような大きなコンセプトを打ち出し、その実現へ向けて成果を出し始めることができたことは、この一年の大きな進捗であったように思う。

そしてその次に

freee はクラウド会計ソフトにおいてシェアNo.1のプロダクトとして成長している。しかし、僕達の実現すべきことは、「スモールビジネスに携わるみんなが創造的な活動にフォーカスできる」ことであり、このミッションを追いかけるためには、単に会計ソフトや給与計算ソフトだけでは不十分である。

会計ソフトという、あらゆるビジネスで必要とされる根幹となるシステムを基点に、スモールビジネスにとってのビジネスのプラットフォームとして成長し、大きな価値を提供していくというのが今後の構想だ。これまでにない新しい価値をきっとたくさんうむことができるだろう。

小さなビジネスほど強くてカッコいい。そんな時代をつくるんだ。

さいごに

3周年のお祝いにて、「3つの子魂100まで」という話をした。きっと、これは会社にも言えるということだ。freee の3年目はきっと、これから長く続く新しい価値そして組織の魂をつくるような面白い年になる。