僕は、スモールビジネスの経営者が本業にだけフォーカスできる環境の実現を目指して、全自動のクラウド会計ソフト「freee (フリー)」を運営している。
その中で、
「なぜ会計ソフトを始めようと思ったのですか?」
経理のプロフェッショナルではなく、会計士や税理士といった資格を持っている訳でもない僕が最もよく受ける質問のひとつがこれだ。
とてもよく聞かれるので、どこかに書き留めておこうと思い、ちょっとまとめてみる。
結論としては、僕のこれまでの経験やキャリアから、「こんなものが絶対に必要で、世の中に大きな価値をもたらす」と考えたからで、そのための原体験のようなものは大きく3つある。
- 経理やバックオフィス業務の非効率性
- クラウドのインパクト
- 日本の中小企業マーケットの課題
1. 経理やバックオフィス業務の非効率性
僕はALBERTというレコメンドエンジンのスタートアップでCFO(最高財務責任者)を務めていたことがある。当時社員数にして15名前後の小さい会社であったので、CFOを務めると同時に、新しいレコメンドエンジンの開発の統括も担当していた。要は会社の管理部門とソフトウエアの開発部門を両方見るという面白い経験をここでした訳で、その経験を通じて面白いことに気づかされた。
ソフトウエア開発の現場では、いかに同じデータを入力させずに参照して使いまわすかとうことをよく考えたり、同じプロセスを繰り返すのであれば自動化して生産性をあげようといったことが日常茶飯事として行われるが、経理、法務、人事などのバックオフィス業務の現場では、同じデータをいろいろなファイルに手で入力したり、誰かが入力したものをプリントアウトして、さらに手で入力し直すといったことが日々行われる。この両者の働き方の違いのギャップみたいなものを埋められないかということを当時よく考えた。
これは誰かが悪いということではなくて、そもそもバックオフィスを自動化するためのスモールビジネス向けの手頃なツールがないこと、一見して不必要に思えるプロセスも慣習化してしまっていて、強烈なイニシアティブを持って変えようとしない限り変えることが難しいし、新しいプロセスをつくるのも結局コストであるといったところが問題であった。
2. クラウドのインパクト
その後、僕は Google にジョインする。Google に移る前は例えば、Google スプレッドシートのようなものに対しては実は半信半疑で、これが本当にエクセルに置き換わることがありえるのだろうかと思っていた。しかし Eat your own dogfood (自社のプロダクトを自社で試し、利用すること)を実践する Google で、しばらく我慢して(笑)スプレッドシートを使っていると、得意な点、不得意な点はあるものの、非常に強力なツールであることがわかった。(こんなことまでできてしまう!)そして、パッケージソフトはどんどんクラウドサービスに置き換わっていくことを確信するようになる。
そして、「昔、悩まされた会計ソフトもどんどんこのようにクラウド化されていくのだろうな」ということを Google に移った当時に強く思った。
しかし、当時空想していて、すぐに起こると思っていたこの変化は、僕が freee を創業した 2012年にもまだ訪れていなかった。
3. 日本の中小企業マーケットの課題
僕の Google 時代の仕事は、主にアジア・パシフィック地域における中小企業向けのマーケティングの統括であった。Google の広告プロダクトであるアドワーズの中小企業の顧客基盤を拡大し、中小企業のマーケティングをオンライン化するのが僕のミッションであった。この仕事を進める中で、毎年・毎四半期アジア・パシフィックのマーケットにおける予算や人員などの計画をつくっていく訳だが、その中で各国の中小企業マーケットについていろいろなマクロデータの分析をしていったりもする。するとその中に、非常に気になることがあった。
日本の「開業率の低さ」である。
日本の開業率(年間の新規開業数/全企業数)は5%未満で、OECD諸国の間では最低といわれる。そしてこの値が低ければ、中小企業自体があまり活性化されないし、新陳代謝も非常に低い。ソニーやトヨタも中小企業だったということを考えれば当然、これは日本の今後のイノベーションという観点からも由々しき問題である。
そして当然、日本では新陳代謝の低い中小企業におけるテクノロジーの浸透度も遅れてしまう。Google 時代にも日本の中小企業はファックスを使うという事実に多くの外国人が大笑いをしていたし、実際ワシントン・ポストなどでも記事になるほどだ。もちろんこれを「文化の違い」という解釈で流すこともできるが、明らかにより優れたテクノロジーに移行できないことを「文化の違い」としてしまうのはあまりにも問題を直視していない。
こういった体験から、日本でもっとビジネスを始めやすくする環境をつくること、日本のスモールビジネスが新しいテクノロジーに移行することを誘引できるような魅力的なプロダクトをつくることに大きな興味を持つようになった。
まとめ
以上のような3つの原体験をならべてみたときに、「経営者が本業にフォーカスできるよう、経営者のための全く新しいクラウド型の会計ソフトをつくり、バックオフィスを自動化する」というアイデアを自分が実現することに対して妙に腑に落ちたし、これを強烈にドライブしたいと思うようになった。毎朝、朝日が昇るとぱっと目が覚めて、ではこれをどうやってカタチにしていこうかということばかり考えるように気づいたらなっていた。大雑把にいえば、これが freee 創業の経緯。もっと細かい周辺の話や思いなんかもあるのだが、それは追って綴っていきたいと思う。
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