周囲に振り回されないプロダクト開発法 – freee のリリースからの学び

今回は、「クラウド会計ソフト freee」のリリースにおける学びについてまとめてみた。今後、新規にプロダクト開発を行う人や、ソフトウエアをコアとするスタートアップの人にとって参考になると嬉しい。周囲からのフィードバックをうまく活用できず、本来すべきだった仮説検証をしきれないケースというのはとても多いのではないかと思う。僕達の失敗もや苦悩などを含め、より多くのよいアイデアが力強く世の中に出ていく一助になれると嬉しい。

freee のリリースまでの間、評判は決してよくなかった

freee は 2013年3月19日にリリースされた。リリースまでの間、いろいろな方に見ていただいたり、触っていただいたが、実はリリース前の freee は決して評判がよいわけではなかった。「今までの会計ソフトで十分」、「この業界は30年間変わっていない。今さら変わる訳ない」、「自動で帳簿がつくのは気持ち悪い」など、いろいろなご意見をいただいた。参考になる部分も多かったが、心が折れそうにもなり、あるときには一旦フィードバックを聞くのをやめ、とにかく一旦完成させて公表して世の中全体に問うてみようという意思決定をしたほどだ。(写真は、当時一番精神的につらかったころの横路と平栗:それぞれ現CTO、開発本部長)

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リリースすると freee は大ヒット

その結果、自分たちが信じる価値をもつ最低限のプロダクトをつくることにひたすらフォーカスし、2013年3月19日、freee はいよいよ世の中に公表された。この時点では、一部の分かる方のニーズを強烈に満たすことができれば万歳、というような思いでいたのだが、予想に反して freee はインターネット上で大きな話題となり、予想していなかったアクセス集中で一時期はサービスを停止せざるを得なかったほどであった。

ターゲットユーザーとインターネットのフィット

リリース当初の freee のターゲット顧客は、個人事業主や小さな法人の経営者の方であった。インターネット上で積極的に情報に触れている方々であると同時に、インターネット上で自由かつ積極的に発言をする方々が多く、強い拡散力があった。インターネットの世界は広い訳で、例えネットで積極的に情報収集/発信をする人の割合は小さかったとしても、そのような方々の強い共感を得られれば、大きな数になる。そこまで計算していた訳ではないのだが、期せずして、freee は発信力のあるイノベーターの方々より強い支持を受けた。

マーケットリサーチでは捉えられないニーズ

僕は、自身のキャリアを通してマーケティング・リサーチを多くこなす仕事をしていた。その経験を通じて強く思うようになっていたのは「OOは欲しいと思いますか」といったようなリサーチ手法の限界だ。回答者はその時点で、価値を正しくイメージできないかもしれないし、ある程度周りの人々に支持されているという事実がないと価値になり得ない場合もある。一方で、例えば、「個人事業主の方で自分で会計帳簿をつけている人はどれほどの割合いるのか」のように潜在的なターゲット市場のボリュームを測定する上では、マーケティング・リサーチは大いに役に立つだろう。具体的なソリューションをマーケティング・リサーチで評価することは困難だ。

ではどうすればよいのか、 会計ソフト freee のリリースやその後の freee のプロダクト群のリリースからの僕の学びをここにまとめておく。

1. 狭めのターゲットセグメントをしっかりと定義すること

会計ソフト freee に関して言えば、ターゲットセグメントの定義は実はしっかりやっていた。しかし、ヒアリングなどをする際にズバリそのセグメントを代表する声を集められていたかというとそうではなかったところが問題であった。会計freee のリリース前のフィードバックとリリース後の実際の反応に大きな乖離があったの一因はおそらくここにあるだろう。会計ソフト freee に関して言えば、i) 自分で会計帳簿をつけている ii) 個人事業主あるいは小規模法人の経営者 iii) インターネット活用が非常にアクティブ (具体的にどんなサービスを使っている人だと範囲に入るのかも定義していた)というようなイメージを持っていたのだが、実際にヒアリングさせて頂いた方はこの3つを厳密に満たしていないケースが多かったと振り返ってみれば思う。

一方、このターゲットセグメントがうまく機能した例もある。例えば、freee はリリース時点で Chrome/Safari 以外のブラウザをサポートしなかった。もちろん、当時 Internet Explorer のシェアは無視できない大きさであった訳だが、テストなどの負荷も考慮して思い切ってサポート外とした。結果として、リリース後3ヶ月ほどの間は IEからのアクセスはほとんどなく、適切な絞り込みができたといえる。

このターゲットセグメントは、特にリリース時は狭めに持っていていいと思う。まずはイノベーティブな狭い範囲の方々の心をつかむことが重要で、それができれば周辺にさらに広がっていく素地ができるのだと思う。

また念の為に定義すると、このターゲットセグメントはペルソナとも違うと思う。ペルソナがチームが一緒にめがけるべく1点を定義するようなものであるが、ターゲットセグメントはストライクゾーンを定義するものだ。エモーショナルな部分のみで評価されるプロダクトでなければ、最初は開発チームも小さいだろうし、ペルソナを定義するより狭めのターゲットセグメントをしっかり定義し、そのセグメントの持つペインポイントをしっかりと解決することがとても重要だ。

2. 明確なベネフィットを定義して、確保すること

「OOな商品を欲しいと思いますか?」に対して賛同を得るよりも重要なことは、自分たちで明確なベネフィットを定義して、実際にそのベネフィットを提供できているかどうかという事実である。会計 freee があまりポジティブでないフィードバックを受けている中で心折れることなくリリースまで突き進むことができたのは、帳簿付けにかかる時間を「50分の1」にすることができるという自分たちの実験の結果であった。これは、既存の会計ソフトでまずは入力の練習をし、同様の作業を freee で行った場合どうなるかというデータであるが、自分たちの実験の結果圧倒的な差がつくれるということに自信を持っていた。これによって、ぶれずに進むことができたし、この圧倒的な差があれば、絶対に風穴をあけられると思った。そして、うまくいかなかったときには明確な学びにもなるだろうと思った。(失敗する際にも学びになる失敗であるかどうかで大きな差がある)

このように、どのようなターゲットセグメントに対して、具体的にどんなベネフィットを提供することができたら勝ちなのか、これを考えて一旦この点にフォーカスしてみることが重要だ。

最低限で最高速ですすめること

振り返ってみると会計ソフト freee はあと2ヶ月早くリリースできたのではないかと思っている。そしてのその2ヶ月という時間は非常に重要な時間であった。今は法人における利用が大きく進んでいる freee であるが、当初は個人事業主の確定申告における利用のニーズが最も大きかった。しかし、2013年3月19日というリリース日は残念なことにその年の確定申告の直後である。あと2ヶ月早くリリースをすることができれば、確定申告に関する知見をさらに1年分多く持つことができたのだ。

では、どのように2ヶ月を縮めることができたのか。

まず、創業直後、Google を退職して一旦時間ができたことを期に、freeeはどうあるべきかをゼロベースで考えなおしてしまったことが挙げられる。このとき、結果として結論はかわらなかったし、アイデアがあるなら形にしてしまうことの方がよほど大事だというのをこの時の経験からも思う。これに加えて、freee はリリース時点では最低限ではなく、定義していたターゲットセグメントやベネフィットに対して少しオーバースペックでもあった(いわゆる MVP – Minimum Viable Productとはかけはなれていたと思う)。

これらを回避するのは非常に難しいことであるが、この経験を臥薪嘗胆として「アウトプット⇛思考(まずアウトプットする、そして考え改善する)」という freee の会社としての価値基準にもなっている。重要な学びとしてカルチャーとしていくのも大切であるし、もうひとつ付け加えるとすると、厳しいタイムラインを立て、それを忠実に守るということによって、自然と削ぎ落とされMVPへとベクトルが向かうのではないかと思う。

読書も大事だった – キャズムとイノベーションのジレンマ

創業当初、開発に没頭してコーディングスキルを高めることに必死だった僕は、あまりビジネス書なるものを読まなかった。会社として freee がある程度成長してきた段階から、課題を感じるような分野については、一度初心にかえって評判のよい本を読んで見るということをやってみたが、中でも最初から読んでおけばよかった、と思う本は「キャズム」と「イノベーションのジレンマ」である。読んでおけばもっと大胆にイノベーターを向いたリリースまでのプロダクトづくりができたのではないかなと思っている。

   

リリース当初のユーザーの要望は非常に重要である

リリース直後、反応がよかった場合には多くのユーザーに利用いただき、多くのフィードバックをいただける。これはとてもありがたいことであるのはもちろんのこと、この初期のフィードバックにはしっかりと注意を払うべきだ。というのも、初期のフィードバックには、「リリース前に想定していなかったが、確かにこれできないとだめだよね」というような至極当たり前のことが非常に多く含まれているからだ。

会計ソフト freee も特にリリース後のフェーズにおいては徹底的にユーザーからのフィードバックによって育てられたし、それがなかったら今頃どうなっていたことかと思うことすらあるほどだ。

もちろん、その後のフェーズにおいてもフィードバックは非常に重要であり続け、しっかりと受け止めていかなければならない。ただし、プロダクトが成長するにつれ、即座に対応するというよりは、フィードバックをいただいたユーザーが背景に抱える課題をしっかりと把握するということが大事で、その上でその課題を解決するために、僕達の場合であれば freee らしいベストなソリューションは何かを問いなおしてみることが重要となり、少し対応の仕方が変わっていくことが自然であり効果的だと思う。

まとめ

今回は freee を例として、初期のプロダクト開発において重要と思える点をまとめてみた。自分自身でも経験していることだが、さまざまなフィードバックを受ける中で芯の強いプロダクト開発をすることは非常に難しいことだ。新しいものを世に出すにあたっては誰もが不安を持つだろう。でも、その不安に打ち克ち、もっともっと新しくエッジの効いたアイデアが試されるべきだ。失敗を恐れるのではなく、失敗したとしても、その後の学びとなるような「活かせる失敗」とすることを目指そう。そのために、月なみながら、強い仮説としてのターゲットセグメントとベネフィットが研ぎ澄まされていることは非常に重要な武器だと感じている。

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